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ぼくのかばん

ぼくのかばんには なんだって入る

使い古した革の筆箱に
色の煤けたスケッチブック

飴の入った色鮮やかな袋と
くしゃくしゃに折り畳まれた
数枚のレシート

その奥には
翡翠色の風になびく草原や
アクアマリンを溶かしたような
碧に染まる湖

あたたかな陽射しに揺れる花畑
深々と澄み切った冬の星空

ときには空っぽのことだってある

大きな空っぽで満たされたぼくのかばん

ぼくのかばんには なんだって入る

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2016.03.26 | ことば

遥かな日々

その公園には
黒い蒸気機関車があって

運転席の下には
昔の石炭が残っている

ちいさな女の子は
その石炭の中を覗き込み

いま 化石を探しているの

といった

この住宅街の中にある
ささやかな公園にさえ
無数の物語が埋もれている

何気ない日々のひと時に
はるか昔の海の中を
旅することもできる

2016.03.26 | ことば

星屑

そらの向こうには
宇宙がある

うみの中にも
宇宙がある

塵は星屑のように
静けさは限りなく

2016.03.26 | ことば

はるのおと

そらを みあげると
べにいろのつぼみが
かぜにゆれていた

つぼみのなかからは
はるのおとがきこえた

2016.03.26 | ことば

しらない時間

どんなところにも
それぞれのくらしがある

それぞれのみる世界
それぞれの思い
感じるにおいや 肌ざわり

しらないまちで
となりにいる
しらないだれか

商店街のはずれの
ちいさな喫茶店は
木の匂いのする
狭い階段を上った先にある

珈琲の香りと 器の擦れる音
ささやくような幾つかの会話

どんなところにも
しらない時間が流れている

2016.03.26 | ことば

10の物語

Ⅰ 帆船

Ⅱ 渡り鳥

Ⅲ くもり空の路地裏

Ⅳ トーストと野菜のスープ

Ⅴ 珈琲と静かな午後

Ⅵ 雨の音色

Ⅶ夕暮れ時のバイオリン

Ⅷ白い壁と月明かり

Ⅸランプの影

X長い夜と白い朝

2016.03.26 | ことば

穏やかな沈黙

それは口をつむぐこと
目をつぶること
耳を閉じること
見過ごすこと
知らないこと
知ろうとしないこと
呆れること
分かり合えないこと


考えること
穏やかな眠りにつくこと
夕凪が止むこと
深く潜ること
ひたすら走ること
絵を描くこと
想像すること
毛布に包まれること


言葉がいらない
時間の中にも
穏やかな沈黙がある

2016.03.26 | ことば

言葉

言葉は
まるで紙ひこうき

あるときは空高くどこまでも
あるときは宙返りをして
淋しそうにぼくのうしろに
落ちていく

思った通りに飛んだときよりも
ちいさな穴や隙間に
吸い込まれるように消えていくとき

あるいは高い壁を
思いがけずに超えたとき

そんなときの方が
心はどこまでも軽くとんでいける

2016.03.26 | ことば

透明に包まれて

つめたい空気に包まれて
からだはちいさく縮こまる

目を閉じて
大きく息を吸い込めば
からだの奥の方から
すっと透き通っていく

降り積もった雪に寝そべり
仰ぎ見た青空のような

サイダーを注いだグラスの
氷の中の気泡のような

透明なものは目に見えない

けれどぼくの前にあるのは
あまりにも透き通った
透明としかいいようのないもの

2016.03.26 | ことば

夏の匂い

ぼくの住むまちには
たくさんの家がある
あたりに溢れかえる
無数の色と音

きみの住むまちには
広いキャベツ畑と
ちいさな川に畦道

空をみあげる

深い青に染まる天蓋
太陽は白く
ひときわ眩しい

ぼくは きみに手紙をかく

手紙には
すこしの言葉と
押し花をひとつ

夏の匂いを
そっととじこめて

2016.03.26 | ことば

ぼくは森になる

ぼくは 船になる
風にふかれて
ながいながい 旅をする

ぼくは 鳥になる
背中にたくさんのまちをのせて
とびつづける

ぼくは 花になる
夕日をあびて
ふわりとゆれる

ぼくは 夜になる
しずけさといっしょに
そっと目をとじる

ぼくは 朝になる
眩しさのなかで
目をさます

ぼくは 森になる
光にむかって
ぐんぐんとのびる
森になる

2016.03.26 | ことば

花と宇宙

花は媚びない

花は頷きもしない

ただそこにあるだけ

誰のためでもなく
静かにそこにある

ただそれだけなのに

ときには誰かの心の中で
新しい芽を咲かせ

見たこともない世界を
見せてくれる

どんなちいさな花の中にも
静かに宇宙がねむっている

2016.03.26 | ことば

ほしのうた

ほしは かがやき
ほしは やさしさ
ほしは しるべ
ほしは いのち

ほしは よろこび
ほしは ゆらぎ
ほしは ひびき
ほしは しずけさ

ほしはうたい
よるはおどる

あらゆるひかりと
あらゆるくらやみを
まといながら

2016.03.26 | ことば

しずかな夜


耳の奥の方で鳴り響く

樹々の揺れる音
雫が土に還る音
深い海の底の音

穏やかな静寂の中で
体は確かな鼓動をうつ

音がないことが
たくさんの音を
つれてくる

2015.04.05 | ことば

公園をめぐる日々

梅雨の晴れ間のちぎれ雲
すべり台の下に そっとたたずむ草花
木々と木々が擦れる音

こどもたちは
ちいさなアリを見つけては
声を上げる

珈琲とサンドイッチを手に
深く息を吸い込む

昔の機関車や 形の歪んだ恐竜の乗り物
色の褪せた木のベンチ

どんな場所にも いろんな物語があるけれど

ちょっとばかりスリルのあるすべり台があれば
なにも言うこと無し

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2014.06.15 | ことば

日曜の夜のメモ

映画【世界はときどき美しい】の言葉より
少しうろ覚えながら


人にも物にも名前がある

ただ果物というだけではなく
これはざくろと呼んであげよう

わたしの生まれた年の10円玉
トマトスープ、昨日の晩つくったやつ
わたしのお守り

そよ風

どんなものにでも それにふさわしい威厳を与えてあげたい

身についてしまった癖や仕草
日々通う道や街並み
服や帽子、カーテンやベッド

そんなありふれたものと
深く深く結ばれているなにか

なにかとしかいえないようななにかが
毎日の暮らしの中にある

そのなにかは
とりかえることのできるものというより
とりかえようのないもの
とりかえなかったもの
とりかえしのつかないもの

そういうものでできている

2014.05.25 | ことば

はるのおと

あたり一面が桜のはなびらに覆われ、すこしずつはるのおとが聞こえてくるようになった。

昨年の春に生まれた娘は、すこし伸びた髪の毛を逆立てながら、ぐっすりと眠りについている。

彼女は、乾燥でほんのわずかに広がったフローリングの隙間を一生懸命覗き込む。

辿々しい足運びで家中を歩き廻り、カーペットのほつれた、細い細い新芽のような糸屑を引っ張っては喜びの声を上げる。
姿が見えなくなったと思うと、台所の隙間に身体を埋めたり、窓枠に腰掛けて微笑んだりする。
この狭い8畳の家の中でもまったく退屈する様子がない。

言葉や知識を得る前の、この動物的な感覚。

彼女の丸い目に映るのは、ぼくの見ている世界とは違うもの。
その世界のことに静かに思いを馳せながら、また新しい朝を迎える。

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2013.04.01 | ことば

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